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Hope 〜注目の若手画家〜 #4 山本水葱

コンクールや公募団体展など、美術界では毎年のように期待の若手が輩出されています。「Hope」では、主に〈絵の現在 選抜展〉の受賞者で、画家として第一歩を踏み出した新人や若手作家にスポットを当て、制作に際して何を思い絵筆をふるっているのか、また、画家になるまでのことから、これからの展望などをご紹介します。

前回はこちら Hope 〜注目の若手画家〜 #3 村山美代子

Hope 〜注目の若手画家〜 #4 山本水葱

山本水葱先生

Hope 〜注目の若手画家〜 #4 山本水葱
好きな絵筆は油彩用ではない「トールペイント用のライナー筆」という山本先生。
Hope 〜注目の若手画家〜 #4 山本水葱
『予感』 油彩30号
(2016年 絵の現在 第42回 選抜展 銅賞受賞作)
Hope 〜注目の若手画家〜 #4 山本水葱
『リンゴ』 油彩M6号
(「一枚の繪」2017年1月号掲載作品)

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「絵やアートには鑑賞者の心を豊かにする力がある」

 「Hope」第4回は、山本水葱(やまもと・なぎ)先生。
 山本先生は、2016年、第42回 絵の現在選抜展で銅賞を受賞後ほどなくして、「一枚の繪」2017年4月号より、誌上デッサン画教室の連載をスタートさせるなど、技術的なことはもちろん、じっくりと対象を見つめた先に現れる、存在感のある作品を描き続けていらっしゃいます。現在は、絵画教室や美術予備校などで後進の指導にも当たられていらっしゃいます。新年度が始まって間もないなか、お話をうかがいました。

 「絵やアートには鑑賞者の心を豊かにする力があると信じています。作者と鑑賞者、または鑑賞者同士が感覚の部分で深く共感することで、つながることができます。たとえ一瞬であってもお互いが分かり合える悦びが、絵を描くこと、作品を発表することの意味であり、制作のモチベーションとなっていると思います」


モチーフの「干からびたネギ」から生まれた雅号

 山本先生は、1990年千葉県生まれ。小さい頃から絵が上手な少年でしたが、もっぱらサッカーをしていたそうです。

 「幼少期に母に絵を褒められてとても嬉しかった記憶があります。とても単純な子供心ですが、今でも絵を描くたびに誰かに見せて驚かせたいと思う気持ちが強くあります。
 小中学生の頃はサッカー少年でした。絵は好きでしたが、特に絵画教室などには通っておらず、学校の美術の授業が好きだったという具合でした。
 高校での美術の自画像デッサンの授業で、藝大に合格した先輩の作品を先生に見せてもらったことが美大進学へのきっかけのひとつでした。あまりに上手くて憧れたのをよく覚えています」

 急展開(?)で美大を目指し、一年浪人した末に、東京藝術大学美術学部に合格。美術に関して幅広く学ぶことのできるデザイン科に進みました。

 「大学時代は当時教授でいらした中島千波先生に影響を受けました。嬉々として花を描かれる姿や美しく丁寧な描画に多くを教わりました。
 また磯江毅さんをきっかけにスペインリアリズムの絵画にも影響を受けました。絵から漂う空気感や実感に感銘を受けました」

  山本先生の「水葱」というのは雅号なのですが、そのきっかけとなったのは、

「学生時代に花を好んで描いていましたが、ある時に干からびたネギの魅力に惹かれて描いてみました。見落としてしまいそうなものの中(日陰者)にある魅力を絵を通して伝えることができると感じたのです。私の中で日陰者の象徴となったネギが、観察によって光を浴びて慎ましく美しく咲く花以上の魅力を見せるのだという思いを込めて水葱という雅号にしました。水葱というのはミズアオイの別名なんです」

とのこと。大学生活の4年間に、さまざまな刺激を受け、良き師の指導、画家としての矜持を学び、描く対象から自身の描くものの核をつかみとることができたようです。雅号に込められたものには、そうした先生の静謐な中に浮かび上がる確たる思いを感じました。
 学生時代からすでに、グループ展などに出品をして作品発表を開始。2014年に大学卒業後は、ドイツの文具老舗メーカーのファーバーカステルが主催する、FABER CASTELL ACADEMY at itoya(東京銀座・伊東屋)での講師、美術予備校の講師をしながら作品発表を続けていました(〜現在)。  2016年、一枚の繪主催、第42回 絵の現在選抜展で銅賞を受賞。翌年からは「一枚の繪」誌上でデッサン画教室を連載(2017年4月号〜19年3月号まで)されるなど、確かな技術に裏打ちされた、対象の裏側、対象の奥といった見えないところまでを感じながら描き上げる作品発表し続けています。


絵を描くことはコミュニケーションに近い

 「描きたいモチーフを見つけた時点で、なんとなくこんな構図や構成で描きたいといったことが頭に浮かびます。しかし、ここですぐに描き始めることは避けています。モチーフをしばらくアトリエに置いて、いろんな角度から眺めたり、放置してみたりしながら時間を置きます(ナマモノの場合は少々急ぎますが…)。モチーフと何度も対峙する中で、形状の変化や自分の感情の変化などが生じて、モチーフの魅力や面白さが少しずつ見えてきます。なんとなくアトリエの中で存在感が強くなるような感覚があります。
 そこからいくつかデッサンをし、自分の感情をどのように乗せて描くか考えます。下地や支持体の選択やプロセスはあえて拘らずに、制作の都度変えています。ただ新作を作るたびに何か新しい技法ができないか探りながら描いています」

 作品制作の流れを山本先生におうかがいすると、「一枚の繪」連載のデッサン画教室でもよく述べられていらっしゃったように「いろんな角度から眺め」ること、「モチーフの魅力や面白さ」の発見といったことを、もちろん先生ご自身なさっていて、また、それだけでなく、「新作を作るたびに何か新しい技法ができないか」とチャレンジされていらっしゃるところに、飽くことのない美への求道心を感じずにはいられません。  先生ご自身の作品の見どころをお聞きすると、

「光です。陰影を丁寧に捉えることを強く意識しています。どのような空間でどのような光の中で描かれているのかを感じていただけたら嬉しいです」

 陰影をとらえることによって対象の存在が見る側に判然と伝わってくる。光は、実際に対象に当たって反射したものだけでなく、その光源、さらに生命力 −生命の輝き― をも表現しています。画家は、

「モチーフのジャンルも拘らず、なんでも描きたいものを描くように意識しています。得意なモチーフはやはり葱などの自然物だと思います。自然の光と自然物の組み合わせをとても美しいと感じているからだと思います」

という思いを携え、絵筆をタクトに通奏低音として、彩色という行為で、支持体を画譜に作品となって私たちを眼福させてくれます。  幼少期に絵を描くことで得た「絵を描くたびに誰かに見せて驚かせたい」という思いはずっと胸中に携え続けていることも忘れてはならないでしょう。

 「私にとって絵を描くことは人に見せて感想を聞くまでが含まれている気がします。なのでコミュニケーションに近いと思います」

 冒頭におうかがいした〈絵とは何か〉〈作品発表することの意味は〉という問いのこたえがここにも述べられていて、絵を通じて交感されるコミュニケーション。作者、作品、観者が並び立ち、「感覚の部分で深く共感する」、作品が発する光が包含する絵画空間を、山本先生は表現したかったのでしょう。

 
Hope 〜注目の若手画家〜 #4 山本水葱  
『流れ』 油彩M8号
(「一枚の繪」2017年8月号掲載作品)

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Hope 〜注目の若手画家〜 #4 山本水葱
『涼』 油彩M8号
(「一枚の繪」2019年8・9月号掲載作品)

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 自身の制作を見つめ直す時間に

 昨年から続く新型コロナウイルス感染症の猛威は、山本先生にも、作品発表の場がなくなったり、指導の難しさに直面したりと、多大な影響を及ぼしていました。

 「コロナ禍のこの1年間は予定していた展覧会が中止になり、制作のリズムは変化しました。自身の制作について時間をかけて見つめ直す時間が増えました。
絵画教室、美術予備校での指導方法もオンライン授業を取り入れるなど変化がありました。感覚的な内容を詳細に言語化して伝えなくてはならない苦労はありましたが、その甲斐あって自分自身も今まで以上に絵に対する理解や考えが深まったように思います」

 制作を「見つめ直す時間」と「感覚的な内容を詳細に言語化」する作業は、内なる自分との濃密な対話をされたことでしょう。これまでの思いをより成熟したかたちで表出された作品が発表されることを期待してやみません。

 「(コロナ禍の自粛期間中など)家族でたくさん散歩をしました。普段行かない公園や川辺をたくさん歩きました。穴場など新しい発見も多くありました」

 こうした思わぬ出来事で得た日常もまた、画家の詩嚢を豊かにしていったのではないかと感じるのは、決して贔屓の引き倒しではないと思います。最も身近な家族の「コミュニケーション」こそ、山本先生の画家としての原点なのですから……。


 偶発的に生まれた表現を

 最後に、今後の展開をおうかがいすると、

 「描いたことのないモチーフを描いていきたいです。自分の制作がいつまでも新鮮であるために、モチーフや技法を変化させながら成長していきたいです」

 真っ白なキャンバスに眩しいほどの光を帯びた作品、「おっ!」と驚かせてくれる作品が見られることは間違いないでしょう。
さらに、

 「偶発的に生まれる抽象的な表現にとても興味が出てきています。今までは丁寧に計画し、画面の隅までコントロールすることを目指して制作していました。近年、映像やCGの進化に伴って表現技法も進化しています。
 絵画の価値として複雑で偶発的に生まれた表現というものがあると思います。新たな表現との遭遇を楽しむように意識しています」

画家自身の「新たな表現との遭遇」を楽しむ心持ちは、観る側の私たちも同様に、胸を膨らませて味わいたい。山本先生の今後の活動は見逃せない!


【山本水葱先生のHP、Twitter】
http://nagiyamamoto.com/
https://twitter.com/dessin_labo
(Twitterの「DessinLABO」は、山本先生と、東京藝大デザイン科を卒業された浅原聡、センザキリョウスケ先生の3名が、デッサン作品を中心に作品を発表しています)

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