「生きるということが背景にあって描いている」
画家にはたぶん、対象と自分との間に画想の醸成される空間があって、湯澤先生のそこには「人間の生きるということ」とはという根源的な問が存在していて、そのこたえとして、人物画や天高く蒼く澄み渡る大自然の情景がタブローに表出されています。この問があるからこそ、生命力を感じさせ、見るものをも包み込むような風景作品が生まれるのかもしれません。選抜展で銀賞を受賞された作品『煌々』には、そのエッセンスが前面に表れているように思えてなりません。
対象の美を伝える、対象への思いを伝える
表現の上で日々試行錯誤をして常に新しい作品を生み出している湯澤先生。よく描かれる人物や風景以外のモチーフでは、
とのこと。とはいえやはり、よく描かれるのは「空」。
「憧れ」や「願望」というのは、脳裏にイメージが深く刻まれているもので、湯澤先生にとってはそのひとつが「空」。見上げると眼の先に広がる空、大気の微粒子をつぶさに描くことが画家の至福のひと時なのかもしれません。
湯澤先生が大学院でテーマにされていたカスパー・ダーヴィト・フリードリヒ(1774-1840年、ドイツロマン主義の画家)は、空が描かれた作品が印象的です。『雲海の上の旅人』という作品では、杖(ステッキ)を持ち画面に背を向けた男性が、岩山の山頂のようなところから遠くの山、さらにその先の空を眺めています。湯澤先生はもしかしたら、『雲海の上の旅人』が見つめる彼方―「その先を、イメージできるような」光景を思い描いているのかもしれません。
見ているうちにじわじわ何かが出てくるような作品を
これから、どのような作品を描いていきたいかをおうかがいしたところ、
「新しい発見」を、日々こころみていらっしゃる湯澤先生。これまで描かれてきた作品も素晴らしいのですが、創作家の、常に新しい作品を描く姿勢は、今後ますます楽しみです。
今年、コロナ禍がおさまれば、秋には二紀会の展覧会が催され、大作が見られます。それまでに小品は、展示が予定されています。じっと作品を見つめていると、「生きる」とは何かという問のこたえが、タブローからじわじわと見えてくることでしょう。湯澤作品の画面の「奥にある作品たちのつぶやき」を実際にご覧いただき、耳をそばだててみてください!
※ 湯澤先生の新作は、3月19日発売の「一枚の繪」4・5月号に掲載されます。 |