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Hope 〜注目の若手画家〜 #1 河原 裕

コンクールや公募団体展など、美術界では毎年のように期待の若手が輩出されています。「Hope」では、主に〈絵の現在 選抜展〉の受賞者で、画家として第一歩を踏み出した新人や若手作家にスポットを当て、制作に際して何を思い絵筆をふるっているのか、また、画家になるまでのことから、これからの展望などをご紹介します。


コロナ禍と画家と作品と 〜自粛生活中の絵(画想)のそだて方〜 Vol.2 鎮西直秀先生の場合
河原 裕先生(選抜展受賞者発表展の会場にて)
巧い絵ではなく、いい絵を描く

 「Hope」第1回にご登場いただくのは、昨年(2020年)開催された「絵の現在 選抜展」の第44回展で銀賞を受賞された河原裕(かわはら・ゆう)先生。
審査が行われた期間は、新型コロナウイルス感染症が蔓延しはじめた春、3月。例年厳しい審査になる選抜展ですが、審査員の先生の講評では「若干28歳(受賞当時)で直球の絵だ。技術的には不満もあるが、『のびしろ』に賭けていきたいのは選考者の常である。これからを期待したい。」(山本貞・二紀会理事長、日本藝術院会員)、「イメージも油彩技法も正攻法で、丹念に描き込んであるだけなのに妙に引かれた。目にあらわな陽の世界よりも、もっと根源的な生が往還する場として目には見えない陰の世界を示そうとしているようだ。」(野地耕一郎・泉屋博古館分館長)と期待値の高さが感じられました。

 河原先生は1991年京都府生まれ。小さい頃から絵を描くのが好きだった子ども時代の、記憶に残る一番古い絵は「絵画教室で描いた玉ねぎのデッサン」。受賞者発表展にも出品された『甘エビ』や直近の作品『卓上にカボチャ』を見ると、何やら原点は「玉ねぎのデッサン」の時代に既にその萌芽があったのではないかと感じずに入られません。
中学生の頃は画塾に通い、高校は、1880年に久保田米僊や幸野楳嶺(竹内栖鳳の師)らによって日本で最初に設立された美術学校・京都府画学校を前身に持つ京都市立銅駝美術工芸高校に入学。本人曰く、この画塾に通っていた頃にはもう、「なんとなく(画家になろうと)思っていた」そうです。画塾の先生から言われた「巧い絵はたくさんあるけれど、いい絵を描いてください」ということばは、現在の河原先生の指標にもなり、目指すところでもあるそうです。
美術コースのある高校では、2年次からは洋画をはじめ、彫刻や陶芸といった専攻に分かれて授業がすすめられていくのですが、

「1年次に専攻を決める際に全専攻の体験をひと通りして、専攻を絞っていくのですが、そのときの彫刻の課題に、モデルさんの頭部で塑像をつくることがありました。全然上手くできませんでしたが、没頭してやっていました。分からないなりにも楽しかった記憶はあります。バランスを見ながら適切な量で粘土をつけていかないとうまくいかないので、あらゆる角度から観察したり、測ったりしないといけないことを知り、そこで、見ることの重要性を学んだと思います」

 

コロナ禍と画家と作品と 〜自粛生活中の絵(画想)のそだて方〜 Vol.2 鎮西直秀先生の場合
『電子レンジ』 油彩F30 号
(絵の現在 第44 回 選抜展 銀賞受賞作)

絵を描くことは同時に(対象を)見ることでもあります。目の前にあるものをつぶさに見つめて絵などに再現することは、簡単なようでいて実に難しい。そのことを、眼と、手という身体感覚を通して感得したことは絵画表現に大いに役立っています。『甘エビ』や『〜カボチャ』からも、対象の造型の確かさをしっかりと感じるのは、河原先生の対象を注視する力、対象を注視して反射してくる、自分自身は対象から何を表現したいのかが、絵隈のように画面からじわりと見えるかのようです。

ゴッホ、アントニオ・ロペス

 多感な高校時代、河原先生にひとりの画家との出会いが訪れます。

「高校時代にゴッホ展を見て、衝撃を受けました。強い絵に憧れ、大学でもしばらく絵具を厚く盛り上げる描き方をしていました」

対象を見つめる力が画面から強烈に感じられるのは、あの『ひまわり』からも容易に分かりますが、このときの河原先生の衝撃は、相当なものだったのでしょう。
高校卒業後、大学は金沢美術工芸大学へ進学。自身の表現をより深く掘り拡げていくことに邁進していきます。

「1、2年のときに、課題で裸婦をデッサンや着彩で描くことが多かったのですが、よく見て焦らず、細部ではなく全体を意識しながらちゃんと重さを感じさせるように描き進めていくことが、今でも大切にしている心構えの部分です」

 高校時代にはゴッホに影響を受けた河原先生。大学ではスペインリアリズムの巨匠、アントニオ・ロペスに魅了されました。

「アントニオ・ロペスは大学の図書館で画集を見て惹かれ、展覧会も東京まで見に行きました(2013年4月〜6月、Bunkamuraザ・ミュージアムで開催)。ゴッホとは違う画面の強さ、陰影の表現や構図など影響を受けました」

 タッチを生かした表現をするゴッホと、リアリズムの極北のような描写をするアントニオ・ロペスという対照的な描き方をする2人ですが、対象をつぶさに見つめ続けることで生まれた作品という点では、通奏低音は両者に共通のものがあることを、意識的にか無意識的にか河原先生は感じ取っていたに違いなく、それ故に魅了されたのでしょう。


コロナ禍と画家と作品と 〜自粛生活中の絵(画想)のそだて方〜 Vol.2 鎮西直秀先生の場合
『甘エビ』 油彩P8号
(絵の現在 第44 回 選抜展 受賞者 発表展出品作品)
コロナ禍と画家と作品と 〜自粛生活中の絵(画想)のそだて方〜 Vol.2 鎮西直秀先生の場合
『卓上にカボチャ』 油彩P10号
(「一枚の繪」2021 年2・3月号 掲載作品)

そこに「在る」感じの美しさ、全体感を意識して

 2016年春、大学院(修士)を修了してからは、金沢の地で働きながらの画業の日々をおくる河原先生。公募展やコンクールに応募して、発表の機会を徐々に広げていきました。
2017年の京展入選を皮切りに、翌18年は日本芸術センター絵画公募展入選、菱川賞優秀作家賞、K写実洋画コンクール優秀賞、しんわ美術展銅賞という成果を得ました。19年にはK洋画コンクール優秀賞、しんわ美術展奨励賞を受賞され、その勢いそのままに、昨年、2020年に、絵の現在 第44回 選抜展で銀賞を受賞されました。
受賞作はご自身の使われている電子レンジがモチーフに。「日々の生活で身近にあるもの。親しみがありきれいだなと思えるものをシンプルに描こうと思いました」という受賞作は、高校時代に学んだ「見ることの重要性」を感得した成果ともいえる、毎日見続けている、生きるために必要な食べ物をつくる調理家電。アントニオ・ロペスの『洗面台と鏡』を想起させる静かな存在感は、日々使っている画家の日常のリアルを見る者に幻視させてくれます。

「毎朝トーストを焼くとき、淡い光の中で冷蔵庫と電子レンジが、そこに『在る』感じが美しい。電子レンジの上の箱は普段置いてあるままで、配置は微調整をした程度。ただ画面の雰囲気を壊さないように『全体感』を意識しました」(「一枚の繪」2020年10・11月号〈絵の現在 第44回 選抜展 受賞者の発表〉受賞記事より)

 河原先生の、絵画というタブローで表現したいものは、「自分が感じたことを素直に表せて、観る人にも無意識に共感」される絵。河原作品は観る者に心地よい浸透圧で感受される画家のイデアの表出とでも言いましょうか、それは、どこか懐かしく、経験したことがあるような、感じたことがあるような何か、なのでしょうか。モチーフの電子レンジや甘エビやカボチャ、それらのある空間それ自体から、静かに語りかけてくれます。


モチーフによって制作の仕方を試行錯誤

 「人の本当の仕事は30歳になってから始まる」とはゴッホのことばですが、河原先生は今年30歳。画家としての仕事が本格化するのは、今年からなのかもしれません。

「モチーフ選びでは、風景を中心にしていましたが、静物も描くようになり、少し自由に選べるようになったと思います。また、モチーフによって少し制作の仕方を変えて試してみたりするようになったと思います」

 画家をはじめ、創作家というのも永遠に試行錯誤が続く仕事をしています。常に昨日の自分を更新しながらも、郷愁を思い抱かせるかのように「観る人にも無意識に共感」される作品を、これからも生み出してくれることでしょう。
個展はこれから、という河原先生。じっくり、そしてたっぷりとまとまって作品を拝見できるのは、遠いことではないかもしれません。ゴッホのことばがそれを裏付けているのですから。

※河原先生の新作は、3月21日発売の「一枚の繪」4・5月号に掲載されます。



 

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