愛おしいと感じた何かを描きとめておきたい
開催予定だった「—音の紋— 田中章惠 油彩画展」。阪神百貨店では2012年5月に開催された「―いろのかたち・おとのかたち― 田中章惠 油彩展」以来2度めの阪神での個展でした。
今年の個展で発表される作品について田中先生は、
と述べられ、作品を見るとすぐにその心持ちが伝わってきました。やさしい色調に彩られ、生きとし生けるものたちがたおやかに描かれるキャンバスには、高いトーンや低いトーンで響く生き物たちの声、風にさゆらぐ草木花の葉擦れの音がハーモニーとなって聴こえてくるようです。
リズム感とイメージ力が色彩の美に繋がっていく
田中作品では常に色彩と音楽の交響を感じますが、それは画家自身の来し方に由来します。
高校までは音大(声楽)を目指し勉強していましたが、祖母の影響で描いていた絵の道へ。武蔵野美術大学大学院を修了され、二紀会で活躍。2009年、第38回繪の現在選抜展で最高賞の金賞を受賞。個展やグループ展を数多く開催し、「一枚の繪」誌上でも活躍されていらっしゃいます。
音楽と絵画。田中作品における音楽の影響は多分に見られます。絵画、音楽に精進した学生時代。
絵画と音楽という美の両輪の軌跡ともいえる作品から表出される心地よさは、絵筆によって塗り込められたリズムにあり、そうして観ていくと、作品毎にさまざまな曲までもが視覚、聴覚を通じて体の中に入ってくるようです。目で聴き、耳で眺める田中作品の鑑賞は、やわらかい色彩の寄せては返す漣にいざなってくれます。
画集を見返して新たに沸き起こった制作意欲
緊急事態宣言が解除され、元の日常、または「新しい生活」へと進む現在、外出自粛をされていた期間、どのように過ごされたのかをうかがいました。
田中先生らしい美しい色彩が元気を与えてくれるようなマスクは、実際に見てみたいとと思うのは筆者だけではないでしょう。そして、これまでの画業(画家になる以前からの分も含めて)とともに積み上げられた画集を見返すことによって、原点を見つめ直すことによって、新たな画想をはぐくんだことでしょう。
色彩のハーモニーで表現する「愛おしさ」
作品を通して表現したいものはとうかがうと、「一言でいうと『愛おしさ』」とおっしゃる田中先生。「愛おし」い表現に癒やされるファンは決して少なくないでしょう。
田中先生の、愛おしいまでの色彩のハーモニーが表現された作品を見られるのが、今後も楽しみです。 |
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田中章惠先生 |
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『グリーンスリーブス』油彩F4号 |
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『赤い靴』油彩F4号 |
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自粛中に作ったマスク(上)。シミの付いたところを退けて縫製。着物と帯のコーディネートは色を重ねていく上で、制作につながるという。 |
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