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『瑞兆 白鳥・富士図』 ミクストメディア特3号 |
生きる力を漲らせてくれる光を描く
「3・11以前、私が月を描く事は極稀でした」
東日本大震災から8年4ヶ月になろうという、令和元年の夏。当時、仙台の展覧会会場にいた鎮西先生は、被災者のひとりでした。それから、毎年のように、以前と変わらずに仙台で展覧会を開催される先生に、仙台に、東北に対する思いをうかがいました。
「私が描くのは朝陽夕陽が輝く光彩の作品でした。しかし千年に一度と謂われる東日本大震災に遭遇してから暫くは、私が描くべきは朝夕の光彩ではなく、静かな霊力を持つ満月だと感じました。それこそが被災された方々への癒しと安寧、そして希望へと繋がっていくと思ったのです。そして時を経た今は、太陽も月もそれぞれ人の心を和らげ、生きる力を漲らせてくれると感じられる様になり、東北の名勝は無論、すべての作品を精魂込めて描いています」
そう言われると、あの時以降の鎮西先生の作品は、モノトーンの世界の中に、「希望へと繋がっていく」ような光?月やまたたく星の輝き、空を焦がす陽光など―が印象的な作品の数々を思い起こします。その、モノトーンの表現の深化といおうか、日本的といおうか、水墨的な表現の作品が強く心に残ります。
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『瑞輝 松島・蔵王名月』 紙に油彩特4号 |
先生ならではの〈油彩による水墨的表現〉についてうかがうと、 「私の絵の特徴は何と謂っても独自の技法による雲の描き方に有ります。それは日本画の溜込(たらしこみ)技法の応用とも謂えるものですので、昔から既に、所謂油彩画的表現より日本画的表現に近い色彩画で有ったと思います。そして年齢を重ねる毎に重要なテーマになっていった富士や松島を始めとした日本三景を描く際には、色彩を用いない水墨的表現が一層私の絵にマッチしてきたのです」
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