アトリエの隅に父愛用のラジオがある。毎日、朝画室入るなり、まずラジオのスイッチを付ける。音楽、ニュース、政治、娯楽(主に落語)、料理番組、スポーツ(野球)、時には短波放送等幅広く一日中聴きながら制作する。このラジオが我家に来たのは、私が小学低学年の頃、戦後まもない物資の少ない頃、父は池袋の進駐軍のバザーで古物のこのラジオと出会ったのだった。それからずっと晩年迄、父と暮らしを共にしたこの古物ラジオは、性能が良く音も良く、でも一度故障した時は困った。中の部品がなく一時はあきらめた。しかし、触っているうちに直り、それからはずっと故障もない。ラジオは父の唯一の友であり、息抜きでもあった。そして、絵のイメージを創った。このラジオ、今でも我家の片隅に置かれてある。
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