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「岬を取材したスケッチはアトリエで幾度となく手を加えていく」と成田先生 |
今まで訪れた岬は100ヶ所近く。気に入っている岬は積丹岬に神威岬(北海道)、尻屋崎(青森県)、佐田岬(愛媛県)、そして佐多岬(鹿児島県)。切り立った崖と複雑で造形的な灯台の佇まい。なぜ岬に惹きつけられるのか。
「心惹かれる風景は自然と人が交じり合い、一体となっている姿です」
岬をモチーフとして描き始めたのは二十代の半ばごろ。はじめは海がテーマだった。それは美しい海の広がりに別世界への憧れを感じていたから。描いていたのは海の周辺にある港、船。そして取材旅行で和歌山県の潮岬を訪れた際に、ふらりと足を踏み入れたトルコ記念館で海に対する思いがさらに深くなった。そこは1890年(明治23)年、オスマン・トルコの特派使節一行を乗せた軍艦が帰国の途中、暴風雨のため座礁し沈没。犠牲者を弔うために遭難碑が建てられた地である。
「目の前で見た海はとても穏やか。本当にこんなことがあったのかと思わず疑ってしまうくらいでした。でも、こんな静かな海ですら一度荒れると、海に慣れている海兵ですら溺れ死んでしまう。海に対する畏怖を感じました」
「岬は地の果てです。海を別次元として的確に表現してくれる存在が岬。それは人間の生き様を感じさせてくれます。そして灯台は人間の象徴です」
灯台守がいて、住む家もある。崖の上にある生活の匂い。これこそが心惹かれる「自然と人が一体となっている」風景である。(抜粋)
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