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一枚の繪 11月号
Nov. 2009 Vol.459
一枚の繪 11月号
深まりゆく秋の奥入瀬へ 葛西俊逸
葛西俊逸「追想−八甲田遠望」
葛西俊逸「追想−八甲田遠望」

秋空の朝、久しぶりに八甲田の、天に何かを問いかける静かな姿を仰ぎたくなって、車を飛ばした。城ヶ倉大橋は光に満ちた紅葉の渓谷。寒気に耐える、八甲田の中腹まで広かるブナの樹海は、上方でアオモリトドマツに場を譲るまで、凛とした秋色を輝かせ、晩夏から実の色づいた一足先に秋を呟くナナカマドや、紅く染まったカエデたちが、八甲田を艶やかにする。

あまりに多くの観光の人と車を避けて、道標を樹木に求めて移動した。黄色から茶へのグラデーションと青森ヒバの緑に縁取られた道を行くと、やがてせせらぎ。誰も居ない小さな橋の傍らの路肩に車を寄せる。仰げば、谷川にこぼれ落ちる錦秋。木漏れ日が射す。スケッチする背中が暖まってくる。空気は踏みしだく落ち葉と同じ匂いの黄金。天は水底のような蒼。あるいは秋の水底に居るのは、このちっぽけな私たちで−。

明日は奥入瀬を訪ねてみようか。もしかしたらこの空が、渓流を光らせてくれるかもしれない。

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